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京都地方裁判所 昭和40年(ヨ)543号 判決

申請人 太田龍一 外四名

被申請人 福知山信用金庫

主文

申請人らの申請はすべてこれを棄却する。

訴訟費用は申請人らの負担とする。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

申請人五名代理人は、被申請人は申請人らを被申請人金庫従業員として取扱い、且つ昭和四〇年一一月八日以降毎月二〇日限り、一日につき、申請人太田龍一に対し金八六一円、同大志万武久に対し金九〇四円、同石原保明に対し金九六五円、同青山勲に対し金八四六円、同松原恒夫に対し金七三七円の割合による金員を支払え、申請費用は被申請人の負担とする、との判決を求め、被申請人代理人は主文同旨の判決を求めた。

第二、申請の理由

申請人五名代理人は、申請の理由として、次のとおり述べた。

一、被申請人は、京都府福知山市、天田郡、加佐郡、大江町を営業区域として、その区域に支店一〇ケ所を設置し、信用金庫法に基き設立された銀行業務を営む信用金庫である。

二、申請人らはいずれも被申請人金庫の職員であり、申請人太田龍一、同石原保明は被申請人金庫本店営業部に、同大志万武久は本町支店に、同青山勲は広小路支店に、同松原恒夫は岡の町支店にそれぞれ勤務していた。

三、申請人らは、昭和四〇年一一月七日付をもつて、被申請人から、就業規則第九一条第三号(再度減給処分を受けて反省しない時)、第五号(業務命令若しくは金庫の諸規定、会達指示等に従わない時)違反を理由に諭旨解雇処分(以下本件解雇と略称する。)に付する旨の通告を受けた。

四、そして、申請人らが本件解雇の通告を受ける直前三ケ月の平均賃金は、一日につき申請人太田は金八六一、一円、同大志万は金九〇四、三円、同石原は九六五、六円、同青山は金八四六、七円、同松原は金七三七、二円であり、毎月二〇日限りその賃金の支払を受けていた。

五、被申請人が本件解雇の理由とするところは、申請人らが同年一〇月一日頃、被申請人金庫の告示文書の上に組合側文書を重ねて貼付したことに対し、被申請人が戒告をなしたこと、更に申請人大志万が同年一〇月八日、その前日付で諭旨解雇された申請外今西の解雇処分の撤回を求めて、本店へ抗議に赴いたこと、およびそのため被申請人金庫広小路支店長に対し、就業時間中の組合活動を許可せよと抗議をなしたこと、他の申請人らは翌九日、就業時間中右今西の解雇処分の撤回を求めて、福知山地方労働協議会労組員と共に、午後零時三〇分頃被申請人金庫本店二階に赴き、被申請人金庫理事長に対し、団体交渉申し入れのため面会を求めたことが、被申請人金庫の秩序を紊し、且つ業務を阻害したとして、同月一三日より二三日まで申請人らを謹慎処分に付し、申請人らが右謹慎期間中、同月一九日及び二〇日の二回に亘つて右処分を不服として出勤し、各自の部署において執務したことに対し、被申請人が同月二〇日京都地方裁判所福知山支部より申請人らの金庫立入り禁止の仮処分を得てこれを執行し、更に同月二四日より一四日間、右出勤行為を理由に第二回目の謹慎処分を加え、これと共に再度第二回目の謹慎期間中、金庫立入り禁止の仮処分を得て執行し、申請人らが右立入り禁止の仮処分をなしたことに対し、京都地方裁判所福知山支部、裁判所に対し、多数詰めかけて裁判官に面会を求めて右仮処分に不服ある態度を示したこと、右第二回目の謹慎期間最終日の翌日である同年一一月七日午後七時までに申請人らに対し「・・・尚、万一この誓約に違背する行為をしました時には如何なる処分を受けましても異議は申し立てません。」という文言を含む誓約書の提出を求めたが、申請人らが右期限までにこれを提出しなかつたことから、結局申請人らが被申請人の指示に従わず、二回の実質的減給処分をも受けて(謹慎処分期間中はその期間の賃金を支払わない。)、反省しないときに該当するというにある。

六、しかしながら、本件解雇は左の理由により無効である。

(一)  本件解雇は、その前提である前記二回の謹慎処分が違法且つ無効であるから、その正当事由を欠き、結局違法且つ無効である。

1 第一回目の謹慎処分について

(1) 前記一〇月八日の申請人大志万の広小路支店長に対する抗議、及び他の申請人らが翌九日、福知山地方労働協議会労組員と共に、被申請人に対して行つた団体交渉申し入れは、同月七日付でなされた前記今西解雇が既に配置換えによつて処分が済んでいる筈の同人に対し、更に処分を加えようとする被申請人の意向に一歩譲歩して、解雇を前提としないで、同人の処分を検討する旨、同年七月三日労使間で確認された事項を無視してなされた、組合として、絶対に是認し得ない不当処分なので、これに抗議するためであり、いずれも正当の理由のもとになされたものである。更に同月九日の本店における団体交渉の申し入れは、時間的にみても、被申請人金庫の終業時である土曜日の午後一二時半頃、人目につかない裏階段より、本店二階に上り、当初代表者数名で名刺を出し、被申請人金庫理事長に面会を求める等平穏裡に団体交渉の申し入れをなしたなどの態様に照し、且つ申請人大志万を除くその余の申請人らが右集団に居合わせ、一時的に職場離脱の形態を備えたとしても、従来、労働協約、就業規則及び労働慣行に則り、この様な緊急な組合活動については、時間中も適法に行われていたもので、何等懲戒処分に該当する様な事実ではなかつた。

(2) 仮りに多少の行き過ぎがあつたとしても右今西に対する諭旨解雇が、従前解雇を前提としないで処分を検討するとの労働組合に対する確約を無視し、労働協約の失効を待つて、突如同月八日解雇処分に付した背信的態度に抗議するのに、この程度の抗議は止むを得ざるものとして認容さるべきものである。

従つて、第一回目の謹慎処分は、その理由なく違法且無効である。

2 第二回目の謹慎処分について

〈1〉 被申請人金庫は、前記のとおり第二回目の謹慎処分をなしたが、結局第一回目の謹慎処分不服従を理由とするもので、二重処分であつてこれまた違法且つ無効である。

〈2〉 仮りにそうでないとしても、謹慎処分を二回重ねる形態の処分は、就業規則上その根拠がなく違法である。

〈3〉 また仮りにそうでないとしても、通算二五日(第一回の謹慎処分一一日間、第二回目の謹慎処分一四日間)に及ぶ給与なしの出勤停止を本体とする処分は、不当に長期に労働者の生活権を脅やかし、公序良俗に反するものとして違法且つ無効なものと云うべきである。

(二)  次に謹慎処分は、結局その本体とするところが、一定期間の出勤停止にあり、その間従前従事していた職場に就かしめないことによつて、企業の秩序を維持し、業務の円滑な遂行を図る事にあるのであるから、その限度でその効力を有する処分であつて、誓約書の提出までもその処分の内容となし得るものではない。従つて、自宅における謹慎とか、組合活動の禁止または金庫構内の無条件立入り禁止等を命じ得るものではなく、また全人格的服従義務を課し得るものでもない。要は労働者の非難さるべき行動によつて、職場秩序が紊され、または害される具体的危険性がある場合、労働者の就労を一時禁止することによつて、その様な行動が再び繰り返されない様、反省を促すと共に他の従業員の戒となし、もつて職場秩序の回復または維持を目的とするもので、その命令の作用は、労働者が平素の作業場に現われ、従前の業務に従事することを禁止するを以て足るものである。よつて誓約書の不提出を理由とする本件解雇は、懲戒権を乱用した違法且つ無効なものと云わざるを得ない。

(三)  仮りにそうでないとしても、そもそも誓約書の提出については、就業規則にその規定がなく、これを要求することは許されないのみならず、その内容が「・・・尚、万一この誓約に違背する行為をしました時には、如何なる処分を受けましても異議を申し立てません。」という様な、恰も封建制下の忠誠義務の如きものを課し、更に申請人らの不服申立権すら制限する様な著しく労働者にとつて不利益な義務を課する誓約書の提出を要求するのは、憲法に定める良心の自由、個人の尊重の規定に反し、懲戒権の範囲を逸脱するものとして、違法且つ無効である。

従つて誓約書不提出を理由とする本件諭旨解雇は、懲戒権の乱用であつて無効である。

(四)  仮りにそうでないとしても、更に懲戒処分に付することは、結局同一事実に対し重ねて懲戒を加えることとなり、処分の一回性の原則、あるいは一事不再理の原則に反して許されない。

(五)  更に本件解雇は、労働組合法第七条第一項に該当し、不当労働行為として無効である。すなわち、申請人らはいずれも活溌な組合活動家であり、本件解雇は、被申請人がこのような申請人らを嫌悪し、同人らを企業から排除することを意図してなされたものであるが、そのことは次のような事実から明らかである。

(1) 昭和三九年七月から四〇年七月頃にかけて、被申請人金庫の経営不振により、その首脳部の殆んどが更迭されたが、新首脳部は経営建て直しのためとして、従業員に対する職制の官僚的支配体制の確立を急ぎ、そのため組合を骨抜きにし、破壊する活動に狂奔する等、従前に比し被申請人の組合対策を大きく変更した。

(2) 先ずその手始めとして、被申請人は、昭和四〇年一月三一日組合に対し、団交の第三者委任の禁止、経営ならびに人事権に対する組合の介入排除、時間内施設利用の組合活動の禁止、同意約款の剥奪、労使協議会の設置と団交人員の規制、非組合員の範囲拡大等全面的に組合に不利益な労働協約の改訂案を提示した。

(3) そこで組合は、同年二月一日被申請人に対し、とりあえず労働協約期間(同年九月三〇日まで)の一年間延長を要求すると共に、右改訂案に反対の態度を固め、同年八月一一日協約改悪反対、協約期間の一年間延長等の要求を掲げてスト権を確立し、同月一六日より本格的に労働協約改訂問題の団交に入つたのであるが、被申請人は、

(イ) 組合の右協約期間の延長要求に応じないのみか、むしろその期間切れをねらつて、何ら誠意ある態度を示さず、遂に同年九月二九日右団交は決裂し、翌三〇日の経過をもつて労働協約を失効するに至らしめ、

(ロ) また、同月三日頃から同月末にかけて、組合員の父兄、保証人を個別的に訪問したり、呼び出したりして、組合の協約改訂案に対する反対を批難攻撃し、組合幹部を赤呼ばわりする等して、組合員をして組合の方針に反対せしめるよう扇動脅迫を繰り返し、

(ハ) 更に、前記今西問題の処置については、組合との間で昭和四〇年春の人事異動の際に同人を本部付以外の職場に異動させることをもつて最終処分とする旨の協議が成立し、同年一月三一日付で本部業務課へ異動させたことによつて解決済みとなつていたところ、右今西処分問題をむし返し、右協約改訂案に対する組合の反対を制するために利用しようと企て、同年四月二〇日頃ひそかに同人を詐欺容疑で福知山警察署に告訴し、同年六月三〇日右事犯が書類送検されたことを理由に、右協議に反して、組合に対し同人の懲戒解雇の同意を求め、これを拒絶されるや、組合が刑事犯罪者にまで同意権を濫用している旨宣伝し、右協約改訂案に対する反対意見を封じて、同改訂案の実現を容易ならしめようとした。

七、(仮処分の必要性)

申請人らは、いずれも資産、収入なく自己の労働による賃金を唯一の収入として生計を維持している労働者であり、本案判決確定に至るまで、その地位を仮りに定めて生活を保全する緊急の必要性がある。よつて本申請に及んだ。

第三、被申請人主張事実に対する認否並びに反論

申請人五名代理人は、被申請人の主張に対し左のとおり述べた。

一、被申請人主張の第四の二(一)記載の事実を認める。

二、同(二)記載の事実中、被申請人金庫が昭和四〇年九月二日、事業所の椅子に貼付された労働協約改悪反対なる文言のステツカーを取りはずしたことに、申請人大志万が被申請人金庫六人部支店、同川口支店に赴き、各支店長に抗議したこと、被申請人金庫の告示文書の上に組合文書を重ねて貼付したことに対し、被申請人金庫が申請人らを戒告に付したこと、申請人大志万が被申請人主張の日に、主張の目的で広小路支店長に抗議し、更に本店で今西解雇の撤回を要求したこと、申請人太田、同松原、同青山、同石原が一〇月九日本店に赴き、専務らに面会を求めたこと、被申請人主張の第一回目の謹慎処分がなされたことは認める。その余の事実は否認する。なお申請外今西が金庫の金を引出すについて、広小路支店長の許可と本店の払渡係申請外岸上の了解を得ていたもので、申請外今西に不法領得の意思はなかつた。更にまた、申請外福田武夫が申請人らの申入れに取り合わず、「地労協の虫けら共帰れ」とか「ルンペン、プロレタリアート帰れ」とか威猛高に侮辱的言辞を弄して挑撥したためこれに抗議したもので、その時間も土曜日の昼過、職員は交替で昼休みをとつて食事をする等、のんびりした状態にあつた時で、被申請人が主張する如く、金銭の照合残務整理に忙しい時ではなかつた。

三、同(三)記載の事実中、申請人らが被申請人主張の両日に出勤したこと、及び被申請人主張の仮処分決定がなされたことを認め、その余の点を争う。

四、同(四)記載の事実中、被申請人主張の第二回目の謹慎処分がなされたこと、同年一〇月二六日、再度立入り禁止の仮処分の決定と執行があつたこと、申請人らが右仮処分を不服として、京都地方裁判所福知山支部に赴いたことは認める。その余は争う。申請人らは、誓約書の提出を頭から拒否したことはない。申請人らは、その誓約書提出期間の延長の申入れと誓約書の「・・・万一この誓約に違背する行為をしました時には如何なる処分を受けましても異議を申し立てません。」との文言の削除を求めたが、被申請人はこれを受け入れようとしなかつた。若し、被申請人がこれを受け入れていたならば、誓約書は提出されていたものである。

五、同(五)記載の事実中、被申請人が申請人らに誓約書の提出を求め、申請人らが指定期限内に右誓約書を提出しなかつたことを認め、その余の事実を否認する。

六、同(六)記載の事実に対し、被申請人が、本件解雇時における解雇の理由は、単に誓約書を提出しないという事、そしてこれが再度の減給処分を受けていながら反省しないときに該当するもので、且つ金庫の業務命令に違反するとの理由であつた。従つて申請人らを諭旨解雇する理由は、右解雇時に明示したものに限らるべきで、その後に他の事由を追加すべきものではない。また同年一〇月一日の戒告処分を右反省の色がないとする事由に加えるのは二重処分であつて違法である。また、就業規則第九一条第三号を適用してなされた本件解雇は、その適用の根拠を欠き無効である。右規定は、その文言より明らかな如く、減給処分を受けた場合に関する規定であり、就業規則の自己制限的性質よりして、これを謹慎処分の場合にまで類推解釈をあえてなし、労働者に不利益に適用することは許されない。しかして、右規定の反省しないときとは、前回の処分事由と同一または類似の非行を繰り返し行つた場合に限定する趣旨に解釈されねばならないところ、申請人らには右に該当すべき事由が何ら存しないから、右規定の適用はあり得べくもない。

第四、申請人五名の主張に対する答弁並びに主張

被申請人代理人は左のとおり述べた。

一、申請の理由に対する答弁

(一)  申請人五名主張の第二の一乃至五記載の事実はこれを認める。

(二)  同六記載の事実中、申請外今西が配置換され、同年一〇月八日諭旨解雇処分を受けたこと、同月一日申請人らが戒告を受けたこと、謹慎処分の通算期間が二五日に及ぶ給与なしの出勤停止処分であつたこと、誓約書の内容が申請人ら主張のとおりのものであつたこと、申請人主張のとおり被申請人金庫首脳の更迭が行われたことは認める。その余については争う。

(三)  同七記載の事実は争う。

二、被申請人金庫が申請人らを諭旨解雇処分に付するに至つた経緯並びにその理由

(一)  申請人らが解雇撤回要求を強く求めた申請外今西英夫の解雇については、同人が昭和三九年一〇月二〇日、被申請人金庫広小路支店において、塩見君明と云う架空名義の金三〇万円の出金伝票を作り、被申請人金庫本店における自己名義の預金口座に入金して、同日右金員のうち、二五万円を引出しこれを騙取した廉で、昭和四〇年一〇月四日、京都地方裁判所福知山支部において、懲役一〇月執行猶予一年六月の有罪判決を受けたこと、更に同申請外人が右以外にも被申請人金庫の顧客から昭和三九年五月二六日頃、合計金二六万二千円を集金しながら、被申請人金庫に入金しなかつたことに対し、被申請人が就業規則第八九条第二号、第九一条第一号、第五号を適用して、申請外今西英夫を諭旨解雇処分に付したものである。

(二)  申請人らは被申請人金庫が正常な労資関係を維持し、労働協約失効後金庫の運営方針を従業員に徹底させるため、昭和四〇年一〇月一日、金庫本支店にその方針を告示文書をもつて掲示したところ、右文書が周知されることを妨害するため、右告示文書の上に組合側文書を貼付して被申請人金庫の業務を妨害したため、昭和四〇年一〇月九日付戒告をなした。また昭和四〇年九月二日、被申請人に無断で事業所の椅子に労働協約改悪反対と記載されたステツカーを貼り付けたので、被申請人においてこれを取りはずしたところ、申請人大志万は、就業時間中職場を離脱し、被申請人金庫六人部支店、同川口支店に赴き、同支店長らに抗議と称してツルシ上げをなし、また同年一〇月八日午前九時過ぎより約三時間にわたつて、本町支店長に対し今西解雇の抗議のため本店に行くことを許可せよ、と強要してこれに従わせ、次いで前記広小路支店に押しかけ、同支店長に対し、同様勤務時間中の組合活動を許可せよと要求して、ツルシ上げをなし、更に同日午後一時三〇分頃申請人太田、同青山、同松原と共に、他の職員一〇数名を引き連れて、被申請人金庫本店に押しかけて、右今西解雇処分の撤回を要求して、福田専務に面会を強要し、同専務より、正当な手続を踏んでくるよう注意を受けるや、「スクラツプ専務、いくらもらつた。」等約二〇分間にわたつてこれを罵倒し、かつ本店職員に対し、動揺を与え、よつて被申請人金庫の業務の執行を妨害した。そして申請人太田、同青山、同松原、同石原は、翌九日午後〇時三〇分頃、業務を抛棄して、福知山地方労働組合協議会役員、労組員等約五〇名と共に、被申請人金庫本店二階事務室に押しかけ、「理事長に面会させろ」とか、その他自己の主張を承認せよとか叫びながら、被申請人金庫福田専務及び小林常務を取囲んで、約四〇分間に亘り、「専務ふるえるな、いくら貰つた。」などと口々に暴言を浴びせ、金庫側が代表二、三名にしぼつて欲しいとの申入れも聞かず、罵言を吐き、肩を怒らせながら事務室内を徘徊して、土曜日の昼過、金銭の照合、残務整理に忙しい時、経理係は机上に約五〇〇万円の現金を置いて計算している最中、再三の退去要請にも応じず、女子職員は恐怖の余り、湯沸室に逃げ込む有様で、その間被申請人金庫本店の正常な業務の運営を麻痺せしめ、被申請人金庫の業務を妨害したので、福田専務が警察へ連絡するに至り、始めて退去したものである。

そこで、被申請人金庫は、申請人らの行為を戒めるため、就業規則第八六条第三号に基き、申請人主張どおり第一回目の謹慎処分に付したものである。

(三)  ところが申請人らは、右謹慎処分を無視して、同年一〇月一九日、二〇日の両日に亘つて出勤し、平然と各自の部署に着席して執務したため、被申請人は再三その上司をして、申請人らに対し、出勤してはならない旨通告をしたのであるが、申請人らは、一向にこれに応じようとしなかつた。

そこで、被申請人は、同月二〇日京都地方裁判所福知山支部に申請人らを相手方として、金庫内立入り禁止の仮処分の申請をなし、翌二一日同支部より、右仮処分の決定を受けて執行せざるを得なかつた。

(四)  被申請人は、申請人らの右謹慎処分違反の行為に対し、本来ならば就業規則第九一条第五号に基づき諭旨解雇すべきところ、申請人の将来のことを考えて、一等減じ、同規則第九三条、第九一条第五号、第九〇条により再度の謹慎処分を加える事によつて戒しめることとし、申請人主張どおり第二回目の謹慎処分に付し、申請人らにおいてこれに従わないときは解雇することあるべき旨の注意を加え、更に前回の事もあるので、同月二六日、京都地方裁判所福知山支部より、申請人らの被申請人金庫の施設内立入り禁止の仮処分の決定を得て執行した。

ところが、申請人らは、またまた右謹慎処分の趣旨に反し、同月二六日及び二七日の両日にわたり、福知山地労協の労組員ら多数と共に赤旗を立て、京都地方裁判所福知山支部に右仮処分の取消を求めて、集団で押しかけて抗議をなし、その事実は新聞に掲載され、狭い福知山市およびその周辺に知れわたり、信用を旨とすべき金庫職員に対する評価を低下せしめ、その結果、被申請人金庫の社会的信用を大きく失墜せしめた。

(五)  そこで被申請人としては、度重なる申請人らの被申請人金庫職員としてあるまじき行為に対し、第二回目の謹慎処分の満了の日である同年一一月六日、申請人らに反省の色があるか否かを確めるため、申請人らを被申請人金庫に呼び寄せ、今後被申請人金庫職員として、秩序ある行動をとる様、申請人主張どおりの誓約書の提出を求めたが、同年一一月七日午後七時までの指定期限にまで、提出に応じなかつた。

(六)  以上のとおり、申請人らは申請外今西の解雇処分と労働協約改訂反対斗争において被申請人の指示を理由なくないがしろにして〈1〉一〇月一日戒告に付せられ、更に第一回目の謹慎処分を加えられたりして、〈2〉金庫の対内的秩序を大きく紊し、業務の円滑な遂行を阻害し、結局第一回目の謹慎処分を課せられるに際し、これに不服ある態度を示して、謹慎処分の中核である出勤停止の作用を無視する気構を示し、二回に亘つて裁判所より金庫構内立入り禁止の仮処分を求めねばならなかつたり〈3〉仮処分決定に抗議して裁判所へ押しかけて、裁判官に抗議し、結局対外的に金庫の信用を大きく失墜せしめたりした挙句、〈4〉金庫の指示に従わず誓約書を期限に至るまで提出しなかつたこと等一連の行為に徴し(右〈1〉は反省の色がない点の情状として主張)、被申請人は同人らに最早金庫従業員として反省の色なしと断じ、謹慎は就業規則所定の懲戒としては減給よりも一等重い処分なので、当然同規則第九三条により同規則第九一条第三号(再度減給処分を受けて反省の色がないとき諭旨解雇する。)を準用することを得べく、更に誓約書の不提出が被申請人金庫の命令、指示に従わなかつたときにも該当するので、併せて同条第五号を適用して、申請人らを諭旨解雇処分に付したものである。

第五、当事者双方の疎明関係〈省略〉

理由

一、申請人ら主張の一乃至五記載の事実については、当事者間に争いがない。

二、(労働協約失効に至るまでの労使双方の交渉経過)

証人福田武夫(第一回)の証言、及び被申請人代表者下野長利(第一、二回)の尋問の結果によれば、被申請人金庫は経営者の放漫経営のため、昭和三九年三月頃、一億数千万円にのぼる不良貸付が表面化し、更に同年四月頃、金庫本店の出納係長による二千数百万円の拐帯横領事件がある等不祥事件が相次いだため、金庫預金者に少からず不安動揺を与え、遂に、金庫に対し一部取付け騒ぎが勃発して、金庫の預金高が急激に約七、八億円減少する事態に陥り、金庫の社会的信用を大きく失墜し、地方における信用金庫としてその機能を十分果し得なくなり、極めて憂慮すべき状態に立ち至つたため、経営陣が昭和三九年七月頃から同四〇年七月頃にかけて、新経営陣と交替し(この点当事者間に争いがない。)、一新した体制の下、金庫の再建と社会的信用を回復するため、従業員の綱紀を粛清し、再度組織の基礎固めに努力し来たつたことが認められる。

次に、当事者間に争いない疎甲第一九号証、二〇号証、二三号証、疎乙第五号証の一、二、六号証乃至九号証、三六号証の二及び証人小林豊次、同足立昭彦、同土佐与佐ヱ門、同福田武夫(第一、二回)の各証言、並びに申請人石原保明(第二回)、被申請人代表者下野長利(第一、二回)の各本人尋問の結果によれば、昭和三七年四月一日協定の労働協約は、一年毎更新して、同四〇年四月一日を以て有効期間満了すべきところ、同協約第七〇条第一項により、その満了前二ケ月前即ち、同年一月三〇日、被申請人金庫から労働協約改訂案を提示の上、その改訂の申入れをなしたこと、これがため同条第二項により右期間満了までに新協約が締結されないときは、右期間満了後六ケ月に限り有効期間が延長されることとなること、組合側はその新協約案の内容が、団交の人的制限を規定していること、交渉相手は組合と金庫のみとし、第三者の介在を排除していること、懲戒解雇事由の拡大、懲戒解雇並びに組合役員の異動を行う場合、単に組合に通知すると規定するのみで、組合の同意を要するとまで規定していないこと等、従来の労働協約より大幅に組合側に不利なものであつたため、協約改訂の申入れを拒否し新協約案に反対する斗争に移つたこと、その後同四〇年の春斗において、組合側は一律三、五〇〇円+五%の賃上げを骨子とする要求を打ち出し、金庫と交渉をなしたが、金庫から同年五月一四日頃、五〇〇円プラス二%の賃上げをする旨の低額回答に接して、組合の態度を硬化させ、組合側に不利な新労働協約案反対斗争と絡んで、組合運動は活溌化し、労使の対立が次第に尖鋭化して行つたこと(もつとも金庫側は同年九月一四日当時平均三、一〇〇円約一三%の賃上げ回答をしていることが認められる)、折も折、組合役員であつた申請外今西の金庫に対する不正事件ありとして、金庫は同年一月既に同人を本店業務課に配置換(この点当事者間に争いがない)したのであるが、更に同年六月三〇日懲戒処分としての解雇の方針を打ち出して、組合側にその同意を求めて来たので、同年七月二日春斗の団体交渉後、この点につき翌三日朝にかけて徹夜で団体交渉が持たれたこと(この点当事者間に争いがない)、その後申請外今西が詐欺事犯として起訴されたので、金庫は、同四〇年八月一二日、一三日、二五日、同年九月三〇日の四回に亘り、右今西の解雇処分をすることにつき、組合側に同意を求めて来たが、いずれも前記七月三日朝にかけての団体交渉で、「解雇を前提としないで処分を検討する」旨の合意に達したとして、その同意要求を拒否したこと、その間、同四〇年八月一一日、労働協約改悪反対と春斗要求貫徹のため、組合大会でスト権を確立、翌一二日金庫に通告したこと、新労働協約が締結されることなく、同年一〇月一日を以て労働協約が失効したことが認められる。

三、(申請人ら主張の六(一)1記載の第一回目の謹慎処分についての判断)

(一)  証人岡本俊一、同四方敏治、同藤井退三の証言、及び申請人大志万武久本人尋問の結果によれば、申請人大志万は、昭和四〇年一〇月八日、当時同申請人勤務の本町支店長申請外岡本俊一に対し、労働協約失効後組合の同意なくして申請外今西の解雇(同月七日付、この点当事者間に争いがない)処分がなされたことについて、本店へ抗議に行くから許可して欲しい旨申し入れ、同店長が金庫の意向として、勤務時間中の労働組合運動は許可しない方針であると説示したが、多数従業員を背景にして同店長に抗議を加え、他支店において許可しているのに本町支店で許可しないのは何故かなど難じて、同店長をして止むなく許可させ、同日午前一一時三〇分頃、被申請人金庫広小路支店に他の組合員数名と共に押しかけ、同店長申請外藤井退三に対し、同店組合員申請外中川、同近藤両名に、勤務時間中申請外今西解雇処分の反対抗議集会参加のための休暇を簡単に与えなかつたと難じて、抗議をなし、各支店長を困惑せしめてその執務を妨害したことが認められる。また証人土佐与佐ヱ門、同小林豊次、同福田武夫、同佐藤成美の証言、及び申請人太田龍一(第二、三回)、同松原恒夫、同土手香久雄、同青山勲各本人、並びに被申請人金庫代表者下野長利(第一、二回)尋問の結果によれば、同年一〇月九日、福知山地方労働協議会役員及び加盟労組員約二〇名は、加盟組合の福知山信用金庫労働組合員であつた、申請外今西の解雇処分について、被申請人との団体交渉を申入れるべく、事前に通知乃至承諾を受ける事なく、被申請人金庫本店二階事務室へ、同日午後零時半頃赴き、被申請人金庫代表者理事長に面会を求めたこと、当時申請人青山は福知山信用金庫労働組合執行委員であり、且つ、同時に福知山地方労働組合協議会執行委員であつたこと、申請人大志万を除くその余の申請人らは、右申し入れの際その場に居合わせてこれに同調したこと、被申請人金庫代表者理事長下野長利は、その際人数をしぼらない限り面会に応じない旨伝えさせたが、その場に居合わせた申請人ら(同大志万を除く)はこれを頑ぜず、理事長との面会を求めて申請外福田武夫専務と押し問答となり、専務が取り合わず、引き取り方を要求したところ、次第に興奮して、同申請外人との間で激しくののしり合い、侮蔑的言辞を投げ合う等の状態に陥り、約四〇分間に亘り押問答を繰り返して、被申請人金庫の土曜日における閉店間際、現金五〇〇万円ほど机上に置き計算等残務整理に最も多忙な時間、被申請人金庫本店従業員の執務を約四〇分間に亘り阻害したことが認められ、右認定に反する証人佐藤成美の証言、及び申請人ら各本人尋問の結果の供述部分はたやすく措信し難い。

なお、その際の激しいやりとりのため、女子職員が湯沸室に恐怖の余り逃げ込むほどだつたとの点については十分な疎明がない。ところで、当事者間に争いない疎甲第一九号証によれば、組合は集会及びその他の組合活動を為すに当つて、福知山信用金庫労働協約(昭和三七年四月一日締結)第一二条に、原則として就業時間外に行うものとし、勤務時間中の組合活動としては、金庫と組合が双方交渉協議するため開催する団体交渉その他の会合、苦情処理のための調査及び交渉、緊急を要する執行委員会及び加盟上部団体の招集する会議、関係官庁の主催する行事への参加を挙げ、同協約第一三条において、右以外の事由で就業時間中に組合活動を行う時は予め金庫の承認を得て行うことと規定し、更に同協約第五〇条において、団体交渉の申入れは、緊急を要するばあい以外、原則として事前に交渉の日時場所交渉委員の氏名及び交渉事項の概要を文書によつて相手方に通告して行う旨規定していることが認められる。そして、申請人五名代理人は、就業規則、労働協約を、就業時間中組合活動を行うことを是認する根拠として掲げているが、申請外今西解雇の撤回要求を目的とした申請人らの前記各行為は前記認定のとおり労使が鋭く対立している最中である事情を考慮するとしても、なおかつ緊急且つ例外として事前通知など不要となすべきものとは云えず、当事者間に争いない疎甲第五号証(就業規則)によるも、右許容する規定は見当らず、従来の労働慣行として、これを認めるに足りる疎明資料もない。なお申請人太田龍一(第一回)本人尋問の結果によれば勤務時間中、事前の通告、交渉委員等の連絡なく、理事者に対し、多数従業員が赴いて団体交渉を申入れたり抗議したりすることが認められていたとこれを許容するが如き供述もあるが、たやすくこれを措信し難い。

以上の事実を綜合すると、申請外今西解雇撤回運動のため、適正妥当な手続を踏むことなくなした申請人らの前記各行為は、特に社会的信用を重んずる被申請人金庫の信用を失墜せしめ、金庫の秩序を紊して業務の円滑な遂行を阻害したものと云うべく、正当な組合活動を逸脱したものであり、違法と認めざるを得ない。なお、申請外今西解雇の経緯並びにその理由については、当事者間に争いないが、同人の配置換の意味については、当事者間に争いない疎甲第一八号証並びに被申請人代表者下野長利尋問(第二回)の結果によれば、申請外今西の不正事件調査と本店外務課員たる職務から離反せしめるためになしたもので処分としてなしたものでないこと、申請人石原保明本人尋問の結果真正に成立したものと認められる疎甲第二二号証、及び証人土佐与佐ヱ門、同小林豊次の証言、並びに申請人石原保明、同太田龍一(第三回)の各本人尋問の結果を綜合すると、被申請人金庫は、申請人ら当時の組合役員との間で、申請外今西解雇を巡つて、同年七月二日から翌朝八時半頃まで徹夜で団体交渉をなした後(この点当事者間に争いがない)、理事者側は申請外今西の起訴はあり得ないとする組合側の主張に押し切られた形で、結局、申請外今西の処分については、解雇を前提とせず改めて処分を検討する事を組合側に約束した事実が認められるが、その団体交渉の推移より見れば、理事者側が主張する如く、同申請外人の処分の約束事項については、その前提として、同人が不起訴のばあいを想定しての約束事項と見るのが相当であり、従つて、被申請人が争う如く、起訴と云う新らたな段階に立ち至つた場合をも想定したものとは認め難く、右認定に反し起訴不起訴を問わず、申請外今西の処分は解雇を前提としないとの確約であつたとする申請人大志万武久、同石原保明(第二回)の各本人尋問の結果は、右事項に照らしたやすく措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる疎明資料はない。

なお、申請外今西の本店外務課から業務課への配置転換は、到底これのみをもつて処分と見るべきものでない事は前認定のとおりである。

而して申請外今西の解雇につき同年八月一二、一三日、及び二五日、並びに同年九月三〇日の四回に亘つて、組合の同意を得るため、懲戒処分協議の申入れをなしたが、組合側からその都度、既に同年七月三日解雇を前提としないで処分するとの協議確認済であるとの理由で拒絶されたこと、申請外今西の解雇処分が労働協約失効後、組合側の同意なしになされたものであることは前記二において認定したとおりである。

以上綜合すると、申請外今西の解雇は労働協約失効後になされたものであるが、前記のとおり金融機関として金銭出納関係につき厳格な金庫に対する犯罪行為が有罪とされ、当時第一審の判断とは云え(昭和四〇年一〇月四日言渡)高度の蓋然性を有するに至つた後、該従業員を諭旨解雇処分に付したのは、正当な処分と云うべきであり、これに反対して一〇月八、九日の両日に亘つてなした前記申請人らの行動が、前記のとおり正常な労使間の団体交渉とは目されない正当な組合活動を逸脱した違法行為と云うべく、申請外今西に対する不当労働行為として緊急抗議乃至団体交渉の申入れとして許容するのは、到底是認し得ないものである。よつて、申請人らの一〇月八日、九日の行動に対してなした第一回目の謹慎処分は適法妥当なものと云わざるを得ない。

(二)  (申請人らの主張の六(一)2記載の第二回目の謹慎処分に対する判断)

前記認定のとおり、被申請人金庫が同月八、九日の申請人らの行動に対し、謹慎処分を加え、更にその期間中、出勤した事実に対し、第二回目の謹慎処分を加え、通算期間が二五日に亘つたことは当事者間に争いない。そして、当事者間に争いない疎甲第五号証によれば、就業規則上懲戒の種類として謹慎処分が掲げられていることが認められ、前記のとおり第二回目に課せられた謹慎処分の根拠は第一回目の謹慎処分の根拠と異なるので、二重処分とはならず、その第二回目の処分の根拠が第一回目の処分の内容である出勤停止の作用を侵害して出勤したのであるから違法行為であり、処分の対象となり得ることは論をまたない。そして、第二回目の処分が謹慎一四日と期間が長期に亘つた点については、相当性の問題は残るとしても、第一回目の処分との均衡もあり、被申請人が懲戒権を乱用し、その裁量を誤つたとまでは云う事ができず、適法と云わざるを得ない。

(三)  (申請人ら主張六(二)記載の本件諭旨解雇は懲戒権の濫用であるとの点についての判断)

前記就業規則第八六条によれば、謹慎とは「始末書を出さしめ出勤を停止し自宅にて謹慎反省せしめる。」とあるが、企業の経営者が対内的にその秩序の維持と業務の円滑な遂行を図り、対外的には企業の社会的信用を保持増大せしめてその発展を図る必要上、秩序を紊し、企業の業務を阻害し、或いは企業の対外的信用を損う者を業務より排除して、一定期間出勤を停止し、従前の職場に就かしめないことによつて、職場の秩序の回復維持を図り、また他の従業員の戒となし、その様な行為が再び繰り返されない様反省を促す処分をなし得るのは当然であり、反省の材料の一つとして始末書の提出を要求したからと云つて、これを違法として否定すべき事由は認め得ない。しかしながら本来利益団体として組成された企業に対し、それ以上に従業員を全人格的に忠誠服従する義務を課し、自宅で謹慎させたり、組合活動を禁じたりすることをも要件とするものと解することはできず、右就業規則に云う謹慎も右限度でのみ認められる処分の種類として考えるべきである。従つて始末書の提出を要求していたからと云つて、たゞちに懲戒権の濫用とは云えない。

(四)  (申請人ら主張の六(三)記載の誓約書の内容が違法であるとの点についての判断)

しかしながら、その始末書なるものは、該従業員の自己反省をなさしめる一つの方法にすぎず、それ以上に今後の不祥事件に対する不服申立権をも放棄乃至制限を認めさせるが如き文書の提出を要求し得るものではない。ところで当事者間において右文書の内容が「・・・万一、この誓約に違背する行為をしました時には如何なる処分を受けましても異議を申立てません。」という内容である点については、争いがない、しかしながらかかる文言は将来裁判所に提訴して救済を求める途を封ずる効力を有するものでもなく、又証人土佐与佐ヱ門、同福田武夫(第二回)の各証言、の結果によれば、右文言を含む始末書の提出によつて反省の有無の資料とする趣旨であること、又それ以上の意味を持つものではない事が窺われる。

(五)  (被申請人主張の申請人らの行為が就業規則第九一条第三号、第五号に当るか否かの判断)

被申請人は、申請人らを諭旨解雇処分に付した理由として、前記就業規則第九一条第五号の業務命令違反の外、同条第三号の再度の減給処分を受けて反省しない時に該当すると云うのであるが、先ず同条第五号違反の点について判断する。

1  前記認定のとおり、申請人らに対し、第二回目の謹慎処分期間終了に際し、就業規則第八六条第三号の規定の始末書の提出命令を下したがこれに従わない事が、結局同規則第九一条第五号に該当するものとの主張は、前認定のとおり、被申請人が提出を求める右始末書の内容が許容され得ない文言を含んでいるため、右条項に該当するとの主張はその理由なく、違法且つ無効である。

2  しからば、同条第三号に該当するか否かの点については、前認定のとおり、申請人らに対する二回の出勤停止(謹慎)処分は有効であり、且つ、その間給与が支給されなかつたのであるから、当然再度の減給処分を加えられたのと同一効果のある処分をも含んでおることは明白である。そこで反省の色がない時について、被申請人が掲上した三つの事実、及びその情状として掲げた事実は、前認定のとおりであるが、証人福田武夫(第二回)、被申請人代表者下野長利(第一、二回)の尋問の結果によれば、前認定の通り右始末書提出を命じたのは、申請人らに反省の色があるか否か確める一方法としてなしたものと認められ、単に始末書の不提出の事由のみをもつて、反省の色がないときと断じたものとは認められない。そして、就業規則第九一条第三号の再度の減給処分を受けて「反省しないとき」とは、前回の減給処分たる被申請人金庫の秩序を紊し、業務の円滑な遂行を阻害し、金融機関の社会的信用を失墜せしめる行為と比べ客観的に見て、同一程度又は類似の非難行為があるか、将来類似の行動態様に出る危険性が明白である事を要し、単に理事者側の主観的見地より判断して認定すべきものではなく、又外形的行為に現われない従業員の内心的真意のみを問題とすべきものでもないと解するのが相当である。

そうだとすると、被申請人が右反省しないときに該当する事由として掲げるものがこれに該当するものか以下検討を加える必要がある。

先ず、前記立入り禁止の仮処分決定を得なければ、申請人らの出勤停止の懲戒処分(即ち被申請人の云う謹慎処分)が、保証され得なかつたとの点については、証人藤井退三、同高橋敬二、同岡本俊一、同福田武夫(第二回)の各証言によれば、申請人らは出勤してはならない旨上司より口頭で注意されたにも拘らず、これを無視して執務した経緯に徴すれば、右仮処分の決定なしでは、申請人らの右懲戒処分に対する違反行為の挙に出でる可能性を防止できなかつたと推認するのにやぶさかではないが、右仮処分決定後、これを侵して出勤した事実はなく、右仮処分決定を受けなければならない状態を即して、ただちにこの事のみで、減給処分をなすに該当する事由と同程度の非行々為乃至行動態様とは目されない。次に裁判所の仮処分決定に抗議し、申請人らが他の従業員と共に多数、裁判所へ詰めかけたという点(この点当事者間に争いがない)が検討される必要がある。

凡そ裁判所の決定等裁判に不服がある場合、適正手続によつて不服申立をなし得る権利のあることは論を俟たないが、裁判に不服があるからと云つて、集団を以て適正手続によらず、意見を述べ上申したり、とりわけ抗議するため裁判所に詰めかける如き行為は、正当な不服申立手続乃至行為とは目されず、証人福田武夫(第二回)の証言によつて真正に成立したものと認める疎乙第三五号証によれば、右行為は、裁判官に対する釈明と云うより集団を以て裁判に抗議する形態と目され、新聞を通じて社会に宣伝され、金融機関として、特に社会的信用の維持増大が企業の経営に必要な信用金庫としての被申請人の信用を大きく失墜せしめたことは否めない事実と認められ、狭い福知山地区において金庫の業務に悪影響を及ぼしたと推認するのもやぶさかではなく、右認定に反する疎明資料はない。なお申請人松原恒夫、同土手香久雄各本人の尋問の結果によれば、同人は当日組合事務所で留守居をしていたことが認められ、右認定に反する証人福田武夫(第一、二回)の証言、及び被申請人代表者下野長利(第一、二回)尋問の結果はたやすく措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。更に被申請人は申請人らに誓約書の提出を求めこれを期限までに提出しなかつた点については、前記認定のとおり単に反省の有無についての一資料として右の事実と併せて考慮さるべきである。

最後に被申請人主張の情状として掲げている点についてであるが、その告示文書は検疎乙第一号証、及び証人福田武夫(第二回)の証言によれば、被申請人金庫の労働協約が、昭和四〇年一〇月一日を以て失効後、被申請人のとるべき態度を表明した告示文書であつて、殊更組合を誹謗したり、従業員を過酷に扱うことを内容とするものではなく、むしろ労働条件については旧労働協約の余後効により従前どおりとする等のもので、組合側が右告示文書の上に、「団結」など記載した文書を貼付しなければならない別段の事情も認められず、右行為に対しなされた前記戒告処分は、就業規則上規定する各種の処分には該当しないとしても、実質的に見れば一種の懲戒処分であると見られ、これを右反省の色がないときに該当する一事由として掲上することは二重処分となり許さるべきではないが、右戒告処分を右反省の色がないとする点の単なる情状として考慮することまで否定すべき理由は見当らない。同様に第一回目の謹慎処分についても、その様な処分がなされているのに反覆違法行為に出で処分されたとして、右反省の色がないことの単なる情状として見るのは許容さるべきで、違法とは考えられない。

以上申請人らの前記行動態様を綜合すると、爾後、申請人らに金融機関の従業員として到底良識ある行動を期待し得ず、将来再び金庫の秩序を破壊し、業務の円滑な遂行を阻害する行為を繰り返す虞れが多分に看取され、結局これらに徴し、将来、前回の謹慎処分に該当する行為に類似した行動態様に出る危険性が明白であると見るのが相当である。

従つて、被申請人金庫が申請人らを就業規則第九一条第三号(再度減給処分を受けて反省しない時・・・諭旨解雇処分とする)、第九三条により、申請人らを諭旨解雇処分に付したのは相当であると認めざるを得ない。

四、(本件解雇が不当労働行為にあたるか否かの判断)

前記認定のとおり、被申請人金庫が提示した新労働協約改訂案は組合側に大幅に不利な内容であつたことは認められるが、その改訂交渉を金庫に有利にするため、申請外今西の解雇処分を利用したことも、申請人ら組合活動家を狙打ちして解雇したことも、これを認めるに足りる疎明資料はなく、申請人らの本件解雇が組合に対する支配介入のためになされたものとも認め難い。結局本件解雇は前記認定のとおり、申請人らの行為が正当な組合活動を逸脱した許容され得ないものであるから、本件解雇につき、被申請人金庫に不当労働行為ありとは認め難い。

五、よつて、申請人らの本件申請は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用については、民事訴訟法第七五六条、第七四八条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山田常雄 上野利隆 相良甲子彦)

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